植物は子孫を残すために、種をいかにして新たな地に運ぶか工夫しながら進化してきました。一般的には風で飛ぶ、鳥や動物に食べられる等が知られていますが、変わった例では、エライオソームによってアリに散布させる植物があります。エライオソームはアリを引き寄せる誘引物質の事で、これを持つ植物は200種類ほどが知られています。
今回は一風変わった生存戦略を選んだ植物の生態をご紹介します。
エライオソームの仕組み
エライオソームとは
日本語では種枕(しゅちん)と呼ばれ、脂肪酸、アミノ酸、糖分が主な成分です。アリに種を運ばせるために、美味しい「おまけ」がついているようなものです。アリに食べ物を提供する代わりに種を運んでもらうという共生関係が成り立っています。何だかおもちゃ付きの駄菓子みたいな生存戦略ですね。
自宅で栽培しているカタクリもその一つで、実の鞘が開いた直後からアリが集まり、種を運び去っていきました。種より小さなアリが集まっていた事に驚きました。
エライオソームによる種子散布の仕組み
種は巣に運びこまれて、多くはエライオソームだけが食べられ、残った種は巣の外に捨てられます。また、巣に運ぶ途中でアリが落として失くしてしまい、そのまま散布となる事もあるようです。
どちらも結果として親株から遠く離れた場所に種が散布される仕組みになっています。
害虫からの防衛策も兼ねる
アリは雑食性で、植物にとって害のあるイモムシやカメムシも襲います。時間差で種が熟すタイプの植物においては、アリの滞在時間が長くなります。エライオソームは種を運ばせるだけでなく、害虫から身を守るための防御手段にもなっています。
エライオソームを持つ植物の例
エライオソームを持つ植物は約200種ほどあると言われています。例を挙げると、以下の種類があります。特定の科というわけではなく、様々な植物が取り入れていて、背の低い草花が多い傾向にあります。
科名 | 種名 |
アケビ科 | アケビ、ミツバアケビ |
イグサ科 | スズメノヤリ、ヌカボシソウ |
ウマノスズクサ科 | カンアオイ、フタバアオイ |
オオバコ科 | オオイヌノフグリ、フラサバソウ |
カタバミ科 | カタバミ |
キンポウゲ科 | クリスマスローズ、ニリンソウ、フクジュソウ |
ケシ科 | タケニグサ、ミヤマキケマン、ムラサキケマン、ヤマブキソウ |
シソ科 | ヒメオドリコソウ、ホトケノザ |
シュロソウ科 | エンレイソウ |
スミレ科 | スミレ、タチツボスミレ |
ツリフネソウ科 | ツリフネソウ |
トウダイグサ科 | エノキグサ、コニシキソウ |
メギ科 | イカリソウ |
ムラサキ科 | キュウリグサ |
ユリ科 | カタクリ |
ガーデニングとの関係
ガーデニングに関わる事で気にしておくべき点があります。
品種の交配では種の紛失に注意
エライオソームのある種はアリが運び去ってしまいます。クリスマスローズ等で品種の交配を行っている場合は、種を失わないようにアリをガードする必要があります。熟したらすぐに採るか、メッシュの袋をかけるなどで対応しましょう。
意図しない場所でこぼれ種が発芽
アリによって種が勝手に運ばれるので、まいた覚えの無い場所に芽が生えることになります。私は実際に、クリスマスローズとイカリソウが、親株から10m以上離れた所で発芽しているのを見つけました。これはアリが運んだ可能性が考えられます。庭のレイアウトに拘っている方は覚えておいても良いのではないでしょうか。
まとめ
この記事では、エライオソームの仕組みや植物の例を紹介しました。最後に内容のまとめです。
- エライオソームはアリに種を運ばせるための誘引物質。
- エライオソームを持つ植物は200種類くらいある。
- 品種交配では種を運ばれないように守った方が良い。
植物と虫の共生関係は奥が深いですね。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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