オニユリについて、栽培事例をご紹介します。私の場合の育て方や、四季の様子、育てた感想等をまとめます。これから育てたい方や、既に育てている方の参考になれば幸いです。
ユリ類はウイルス病に弱いとされますが、オニユリは耐性があり丈夫な種類です。繁殖形態も独特で種をつけずムカゴで増えます。この記事では親株の生長と、ムカゴから開花までの流れをまとめました。
オニユリの特徴
古くに中国から帰化したとされる原種のユリで、夏の始めにオレンジ色の大きな花を咲かせます。花弁は反り返り、褐色の斑点が散りばめられたような模様があります。雄しべと雌しべは長く突き出します。和名でテンガイユリ(天蓋百合)とも呼ばれます。繁殖形態が特殊で、葉の付け根にムカゴと呼ばれる小さな球根のような子株ができます。遺伝的な理由で種子ができない性質です。姿の似たものにコオニユリがあり、こちらはムカゴをつけず、種子ができます。花はオニユリに比べて小ぶりで、山地の草原等に自生しています。
ユリは球根植物として扱われますが、厳密には少し違います。地下部にできる塊は隣茎(りんけい)呼ばれ、燐片(りんぺん)という葉が変化したものが集まったものです。燐片には養分を貯えます。タマネギ、チューリップもこのタイプです。オニユリの燐片はコオニユリやヤマユリと同様にゆり根として食べることもできます。
基本データ | |
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学 名 | Lilium lancifolium |
分 類 | ユリ科 ユリ属 |
形 態 | 多年草(冬季落葉) |
原産地 | 中国、朝鮮半島、(日本) |
大きさ | 高さ100~200cm、幅30cm |
開花期 | 7~8月 |
花 色 | 橙(オレンジ色) |
日 照 | 日当り |
水 分 | 普通 |
耐寒性 | 強 |
耐暑性 | 強 |
増やし方 | ムカゴ、鱗片挿し |
用 途 | 庭植え、鉢植え、食用(ゆり根) |
わたしの育て方
私の庭では2017年の夏から育て始め、毎年花を咲かせています。親株一株と、そのムカゴから増やした多数の子株を育てています。親株は年々大きくなり高さは2m程度まで育ちます。子株も成長して花を咲かせてくれました。
栽培環境
親株は地植えにしていて、半日だけ直射日光の当たる場所に植えています。本来は日当たりを好みますが、多少の日照不足には耐えてくれています。子株は大半が地植えで、一部は鉢植えにしています。
土は保水性と水はけの良い環境を好みます。
鉢植えは倒れやすくなるので、重量のある大きな鉢が向いています。直径30cm程度のプラ鉢では転倒防止対策が必要です。
水やり
極端な乾燥は嫌いで、水切れが続くと下葉から枯れてきます。地植えでも夏は水やりをしています。
肥料
春に緩効性肥料を少な目に与えています。
病気・害虫
目立った病害虫は出ていません。
ユリ類はウイルス病によって葉にモザイク状の症状が出る事がありますが、本種は耐性があり育てやすい種類です。
お手入れ
鑑賞用の栽培であればローメンテナンスです。種子ができないので、花ガラを摘まなくても生育に問題ありません。球根植物に近いですが、夏に掘り起こす事も不要で、数年間は植えっぱなしでも大丈夫です。
大株になると倒れる事があります。6月頃、茎が長く伸びたら必要により支柱を立てます。
ムカゴを採取する場合、7月が適期です。花が咲くと同時にムカゴも成熟します。
冬は地上部が全て枯れるので、茎を取り除きます。ハサミで切るか、完全に枯れれば手で簡単に引き抜けます。
四季の生育状況
親株の生長の様子をお伝えします。ムカゴの生長は後ほどご紹介します。
春の様子(3~5月)
4月に入ると芽が地上に現れます。5月に入り本格的に暖かくなると成長の勢いが増してきます。途中で枝分かれはせず、一株に対して一本の茎が育ちます。
夏の様子(6~8月)
6月の後半には蕾が見え始め、7月中旬に開花します。写真の親株は6年目を迎えた古株で、茎が長く伸び、高さが2mくらいになりました。茎が倒れてきたので、横のモミジの枝に縛っています。
この株では合計12輪の花が咲きました。花は下から上に向かって順番に咲き進みます。花の直径は約10cmあります。一つの花は5~6日間咲き、終わりかけは色が濃くなります。開花期間は3週間程度(7月中旬~8月初旬)でした。
花が咲く頃にはムカゴも成熟しています。葉の付け根に1個つきます。年によって量にバラつきがあり、花数が多い時はムカゴの数が少なかったです。
秋の様子(9~11月)
花後も残った葉が光合成を続け、地下部の隣茎に養分を送っています。秋が深まると葉が変色して枯れ始めます。
冬の様子(12~2月)
冬になると地上部は枯れ、何もなくなります。枯れた茎を取り去ると球根の場所が全くわからなります。寒さには強く、防寒対策は要りません。
ムカゴから開花するまで
オニユリはムカゴができるので、採取して花が咲くまで育ててみました。自然落下でも育ちますが、最初だけ手伝ってあげると成功率がグッと上がります。説明に使用する写真は同一株ではなく、複数のものを含みます。
開花期がムカゴ採取の適期です。7月下旬に採ったところ、茎についた状態でも発根が始まっていました。新鮮なムカゴは赤紫色でプリプリのツヤツヤです。直径は5mmから1cmでした。
採取したら、早めに鉢か地面に直接植え付けます。むき出しよりも、薄く土を被せた方が良いです。私の場合、地面に深さ2cmの穴を空け、尖った方を上に向けて入れ、1cmの厚みで土を被せました。地面にばら撒いた事もありますが、埋めるよりも生存率が低かったです。
ムカゴは8月以降まで放置するとポロポロと勝手に落ちていきます。葉にひっかかり運悪く落ち損ねたものは水分が抜けてシワシワになってしまいます。落ちたムカゴも虫にかじられ、生存率はあまり高くないように感じます。
最初の年は葉が1~2枚出ます。埋めた事を忘れると抜いてしまいそうです。わずかな葉で光合成をして養分を貯えます。他の草花に埋もれると生育が悪くなります。
順調に生育した株では、2年目になると茎が立ち上がります。高さは約20~30cmです。早くもムカゴをつけています。なんて気が早いんでしょうか。
ムカゴを植え付けて3年経った株です。高さは80cm程になり、蕾をつけてくれました。
待望の開花です。一株に一輪でしたが、オニユリらしい存在感を発揮しています。親株よりは一回り小さい花でした。これから立派な大株になってくれる事を期待します。
無事に開花を迎えた子株ですが、一丁前にたくさんのムカゴをつけています。オニユリはムカゴに始まりムカゴに終わるユリでした。
育てた感想など
見た目と育てやすさ
原種の花とは思えない派手な姿です。花も背丈も大型で見た目にインパクトがあります。落ち着いた雰囲気のガーデンでは浮いてしまうかもしれません。ただ、病気に強く、増やしやすい点は他のユリより優れていると思います。若い株の方が背丈が低く、花数も少ないので景観には馴染みやすいです。
おすすめの使い方
存在感を活かして、夏の時期のフォーカルポイント(目を引く点)におすすめです。複数の株を寄せると更に見ごたえがあります。
相性の良さそうな植物
主張が強いため、他の花との組み合わせは少し難しく感じます。小花が咲く背の高い草花類は引き立て役として調和すると思います。他には、草原に咲くイメージでグラス類と合わせてみてはいかがでしょうか。
例:オミナエシ、三尺バーベナ、カレックス、イトススキ、ワイルドオーツなど
関連情報
食用としての「ゆり根」
ゆり根として食用にされるのは、コオニユリ、オニユリ、ヤマユリです。中でも国内の栽培では苦みの少ないコオニユリが多く、北海道が主要産地となっています。生産地では、毎年のように植え替えを行い、蕾も摘むという大変な手間をかけていて、種球から出荷するまでに6年かかるそうです。食用品種としては‘白銀’、‘月光’等が選抜されています。
参考資料
旬の野菜百科:ゆり根/ユリネ/百合根:旬の野菜百科 (foodslink.jp)
野菜ナビ:ゆりね ゆり根 百合根 ユリネ (yasainavi.com)
野生のユリを訪ねる
日本の野山にはオニユリの他にもオレンジ色をした原種のユリがあります。登山中に出会った花をご紹介します。自生地の風景は景観デザインのヒントにもなりますよ。
コオニユリ(Lilium leichtlinii)
コオニユリは神奈川県の塔ノ岳(丹沢)で見かけた事があります。斜面の明るい草地で花を咲かせていました。花の直径はオニユリより小さい約6~7cmで、色が鮮やかなため良く目立ちます。花の姿・形はオニユリにそっくりですが、小さいせいか優しい印象です。花の大きさと、ムカゴが無かった点でコオニユリと判定しました。
クルマユリ(Lilium medeoloides)
クルマユリは南アルプスの北岳と、日光白根山で出会いました。こちらも自生地は明るい草地で、周囲には他の草花も咲いています。オレンジ色の花が可愛らしいです。オニユリやコオニユリに比べて花が小さく4cmほどで、花弁の斑点は少ないです。葉の付き方に特徴があり、葉が輪生(一か所から複数枚出る)します。個人的にはオニユリよりも好みです。
オニユリに種ができない理由
オニユリは遺伝的な理由で正常な種子ができない植物です。これは三倍体植物という、3組で構成された染色体を持っている事に由来します。多くの植物は2組の染色体を持つ二倍体ですが、稀に4組の染色体をもった四倍体が生まれます。二倍体植物と四倍体植物が組み合わさると、細胞の減数分裂により三倍体植物が生まれます。三倍体植物は受粉しても減数分裂が上手くいかず、結果として種子が成長しません。オニユリの他にはヒガンバナ、ヤブカンゾウ、シャガ、バナナ(キャベンディッシュ種)等が知られています。果物の栽培において、種なし品種の作出にも応用されています。
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