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野菜づくりの大敵!厄介なセンチュウの種類と防除対策・対抗植物について

家庭菜園

「適切に管理しているはずなのに作物が育たない。特定の野菜が枯れてしまう。根の様子が何だかおかしい。」これらはもしかしたら、センチュウの仕業かもしれません。植物寄生性のセンチュウは体長1mm以下の小さな生物ですが、野菜の栽培に甚大な被害を出すことで知られます。

この記事は以下の方におすすめです。

  • センチュウの種類について知りたい。
  • 対抗植物、被害を受けにくい作物を知りたい。
  • 有効な防除方法や農薬を調べている。

センチュウ被害は私の家庭菜園でも起こり、何年も苦しめられてきました。収穫できずに枯れる事もあり、個人的には一番出て欲しくない生物です。この記事ではセンチュウ対策について全般的にまとめました。家庭菜園でセンチュウの被害に悩んでいる方の参考になれば幸いです。

センチュウとは

センチュウの被害を受けて枯れたスイカ
ネコブセンチュウの被害で収穫直前に枯れてしまったスイカ(家庭菜園)

センチュウの種類

センチュウ(線虫)は細長い体をした生物の総称で線形動物とも呼びます。一言にセンチュウといっても様々な種類がいて、2万種類が確認されているとも言われますが、正確な数は分かっていません。地球上に広く生息し、多くは土の中や水中、海底等で生活しています。寄生生物のイメージもありますが、大半はそういった性質は無く、病原菌や有害センチュウを捕食するなど、野菜の栽培において有益な種類もいます。

土壌に生息するセンチュウの多くは作物に対して無害ですが、一部の種類が植物の根に寄生して悪さをします。中には、地上部に寄生するもの(マツノザイセンチュウ、イチゴメセンチュウ等)もいます。農業に深刻な被害をもたらすのは根に寄生するものが多いです。

有害なセンチュウの種類と症状

作物の根がセンチュウに寄生されると、地上部の萎凋(いちょう:しおれる現象)といった生育不良や減収、品質低下が起こります。二次被害としては根の傷口からカビが侵入し根の腐敗を引き起こします。被害が深刻な場合は収穫できずに枯れてしまう事もあります。

センチュウは種類によって生態や特徴が異なります。農作物で特に被害の大きいものにはネコブセンチュウ類ネグサレセンチュウ類シストセンチュウ類が挙げられます。

分類特徴
ネコブセンチュウ根に定着し、コブができて生育不良となる。多犯性。
ネグサレセンチュウ根に寄生し褐変、壊死、奇形を引き起こす。定着せず移動する。多犯性。
シストセンチュウ根に定着し生育不良を起こす。シスト(卵のう)で長期生存する。被害作物は限定的。
根に加害する主要センチュウの分類と特徴

センチュウの被害を受ける作物と対抗性のある作物

センチュウは種類によって寄生できる植物が異なります。ネコブセンチュウ類とネグサレセンチュウ類は多犯性ですが、被害を受けにくい作物が種類ごとに様々です。一方でシストセンチュウ類は宿主が限定的です。以下の表に、国内で特に被害の大きいセンチュウの種類と被害を受けやすい作物及び被害を受けにくい作物をまとめます。

名称寄生作物対抗植物(作物のみ抜粋)
サツマイモネコブセンチュウサツマイモ、トマト、スイカ、他多数ラッカセイ、イチゴ、ワタ
キタネコブセンチュウトマト、ニンジン、イチゴ、ラッカセイ、他多数スイカ、ワタ、サツマイモ、アスパラガス、イネ科
アレナリアネコブセンチュウトマト、スイカ、ラッカセイ、他多数イチゴ、ワタ、サツマイモ
ジャワネコブセンチュウトマト、スイカ、他多数ラッカセイ、イチゴ、トウガラシ、ピーマン、ワタ、サツマイモ
キタネグサレセンチュウニンジン、ゴボウ、ダイコン、他多数ラッカセイ、サツマイモ、アスパラガス
ミナミネグサレセンチュウサトイモ、サツマイモ、ジャガイモ、他多数ラッカセイ、アスパラガス
ジャガイモシストセンチュウジャガイモ、トマト、ナス等(ナス科)寄生作物を除く作物
ダイズシストセンチュウダイズ、アズキ、インゲン等(マメ科)寄生作物を除く作物
クローバーシストセンチュウクローバー、アズキ、インゲン、ホウレンソウ等ダイズ、ラッカセイ、キャベツ、カリフラワー、ハクサイ他
主要なセンチュウの種類と被害作物例

なお、寄生されやすいとされる作物でもトマトやサツマイモでは抵抗性品種の開発も行われています。また、センチュウは作物に対する病原性が質的あるいは量的に異なる系統が確認されています。この系統の区別をレースと言います。表では例外は含まず、あくまで一般的とされる内容をまとめています。参考文献は記事の末尾に記載します。

センチュウ被害の予防策

畑とクワ
道具の土を落とす事がセンチュウ予防の基本

道具についた土を洗ってセンチュウの拡散を防ぐ

センチュウ予防の基本は道具についた土を完全に落とす事です。土には卵や幼虫が含まれている可能性があります。使い終わった道具を丁寧に水洗いしてセンチュウの侵入・拡散を防ぎましょう。土のついたもの(手、スコップ、クワ、手袋等)は全てが対象です。忘れがちなのは作業靴や長靴で、複数の畑を管理している場合、移動の際に洗うか履き替えないとセンチュウを運んでしまう可能性があります。

その他の注意点として、センチュウは種類によっては野菜だけではなく草花や樹木にも寄生します。花壇で花の苗を植えた時等も拡大リスクがあるため注意しましょう。

外部からの侵入を防ぐ

センチュウはどこに潜んでいるか分かりません。公園の植え込みや他の農地を歩いた後は、そのまま自分の畑に入らない方が良いです。また、植え付け時に怪しい苗を植えない事も大切です。購入前に根を見る事は中々できませんが、葉が萎えているとか、黄色く変色している物は避けた方が無難です。手間はかかりますが種から育てる方がリスクは少ないです。

連作を避けて微生物群の偏りを抑える

連作とは同じ場所で同じ科目の野菜を続けて育てる事です。連作を行うと、土壌に含まれる病気や害虫の密度が年々高まってしまい被害が出やすくなります。地力が落ちるとも言われ、野菜づくりでは連作を避ける事が基本とされています。センチュウ対策においても、連作を避ける事が有効手段となります。

但しセンチュウは多くの植物に寄生できる種類もいるため、科目を変えるだけでは不十分な場合があります。例えばサツマイモネコブセンチュウは、サツマイモ(ヒルガオ科)、トマト(ナス科)、キュウリ(ウリ科)、オクラ(アオイ科)というように複数の科目の作物に寄生します。多犯性のセンチュウには対抗植物を輪作体系に組み込むことで防除効果が上がります。

発生してしまった場合の対策

センチュウ対抗植物のマリーゴールド
フレンチマリーゴールドは多くのセンチュウに有効な対抗植物として知られる

対抗植物の利用

植物の生理的特性や含まれる成分等によって、センチュウを減らす効果があるとされる植物があり、対抗植物と呼ばれています。仕組みは植物によって異なり、感染してもセンチュウの増殖に適さず密度が低下するもの、感染後に殺線虫成分を出すもの、感染後に組織が変化して線虫の発育を阻害するものがあります。野菜ではイチゴ、ラッカセイ、アスパラガス等、緑肥作物としてはマリーゴールド、えん麦、クロタラリア(タヌキマメ属)等があり、種類によって効果や有効なセンチュウは異なります。緑肥作物の多くは輪作体系に組み込んで野菜の替わりに栽培し、緑肥として土に混ぜて用います。

主要なものを以下の表にまとめます。なお、対抗植物は100%効果を保証するものではありません。対抗植物を利用する場合は、販売元で使用方法や防除対象とするセンチュウの種類をしっかり確認しましょう。

対抗植物の名称対象となるセンチュウ※商品名
又は
品種名
ネコブネグサレシスト
















<野菜類>
ラッカセイ
イチゴ
トウガラシ
ピーマン
ワタ
サツマイモ
スイカ
アスパラガス
<緑肥作物>
ギニアグラス
ナツカゼ、ソイルクリーン
エンバク野生種(strigosa種)ヘイオーツ、テララ、リッキー
エンバク野生種
ネグサレタイジ
エンバク(sativa種)スナイパー、たちいぶき
ソルゴー(vulgare種)つち太郎、スダックス
クロタラリア ジュンセアネマコロリ、ネコブキラー
クロタラリア スペクタビリスネマキング、ネマクリーン
クロタラリア ブレビフロラ
ハブソウ
赤クローバー
はるかぜ
クリムソンクローバーくれない
アフリカンマリーゴールドアフリカントール、グランドコントロール、エバーグリーン
フレンチマリーゴールドプチイエロー、セントール他
メキシカンマリーゴールド
対抗植物一覧表(〇:密度抑制効果有、✕効果が無い・密度増加、空欄:情報不足)
※センチュウの表記について
  • サツマ:サツマイモネコブセンチュウ
  • キタコ:キタネコブセンチュウ
  • アレナ:アレナリアネコブセンチュウ
  • ジャワ:ジャワネコブセンチュウ
  • キタグ:キタネグサレセンチュウ
  • ミナミ:ミナミネグサレセンチュウ
  • ダイズ:ダイズシストセンチュウ
  • クロー:クローバーシストセンチュウ

堆肥の混和

堆肥に含まれる有機物は微生物を増やし土壌環境を整える効果があります。有害なセンチュウにも天敵がいて、センチュウを捕食する肉食系のセンチュウや菌が知られています。微生物のバランスを正常化することで特定の有害な種類が増えにくくなります。注意点としては、即効性やセンチュウを直接減らす作用は無く、根本的な改善策と捉えると良いです。

石灰窒素

石灰窒素は肥料と農薬の効果を兼ね備えた資材で、製品によっては両方に登録のあるものもあります。主成分はカルシウムシアナミドで、土壌中の水分と反応してシアナミドに変化し殺虫・殺菌・除草の効果を発揮します。シアナミドは数日で尿素に替わり、その後はゆっくりと炭酸アンモニウムを経て硝酸へと変化して作物に吸収されます。アルカリ分が60%で酸度土壌の中和効果もあります。作物の植え付けはシアナミドが分解された後に行う必要があります。

参考:土づくり肥料別Q&A > 石灰窒素 [PDF:382KB](全農)

化学農薬(燻蒸剤)

センチュウに使用する農薬は大きく分けると燻蒸(くんじょう)剤と非燻蒸剤に分けられます。燻蒸とは、土壌にガス化して拡散する薬剤を注入し、センチュウを殺虫する手法です。薬剤散布作業の他、被覆やガス抜き等の手間がかかります。効果は高いですが、土壌生物への悪影響や刺激臭、オゾン層破壊等が問題となっており、近年は使用を控える動きが見られます。定植、播種の一定期間前に行う必要があります。家庭菜園で行うにはハードルが高い方法です。

化学農薬(非燻蒸剤)

燻蒸剤に替わって使用が増えてきているのが非燻蒸剤です。登録のある殺線虫剤には以下のものがあります。種類により定植・播種前の散布、生育期に使用できるか等が異なります。家庭菜園では地表散布・混和して使う粒剤のタイプが使いやすいと思います。対象の作物やセンチュウの種類は説明書の記載に従って使用しましょう。下表は2022年8月時点の内容です。

名称商品名対象のセンチュウ
<液剤、乳剤、水和剤>
DCIP 乳剤ネマモール※2019年11月失効
ホスチアゼート液剤ガードホープネコブセンチュウ、他
ホスチアゼート液剤ネマバスターマツノザイセンチュウ、ネグサレセンチュウ
メソミル水和剤ランネートイチゴセンチュウ、他昆虫等
<粒剤、粉剤>
DCIP 粒剤ネマモール※2019年11月失効
イミシアホス粒剤ネマキックジャガモシストセンチュウ、ネコブセンチュウ
オキサミル粒剤バイデートL粒剤ネグサレセンチュウ、ネコブセンチュウ、シストセンチュウ、他昆虫等
カズサホスマイクロカプセル剤ラグビーMC粒剤ネコブセンチュウ、ネグサレセンチュウ、シストセンチュウ
カルボスルファン粒剤ガゼットイネシンガレセンチュウ、ネグサレセンチュウ、他昆虫等
フルオピラム粒剤ネマクリーン粒剤ネコブセンチュウ、ネグサレセンチュウ、シストセンチュウ、他
ベンフラカルブ粒剤オンコルイネシンガレセンチュウ、他昆虫等
ホスチアゼート粒剤ネマトリンエースネコブセンチュウ、ネグサレセンチュウ、シストセンチュウ
メソミル粉粒剤ランネート微粒剤Fキタネコブセンチュウ、他昆虫等
センチュウに登録のある化学農薬一覧表(2022年8月現在・失効した農薬も記載)

生物農薬

2022年8月現在で登録のある生物農薬は1種類です。センチュウに寄生する特殊な菌を製剤化したものが販売されています。

名称商品名対象センチュウ登録作物
パスツーリア・
ペネトランス水和剤
パストリア水和剤ネコブセンチュウ野菜類、いも類、いちじく
モナクロスポリウム 
フィマトパガム剤
ネマヒトン※2013年4月失効
センチュウに登録のある生物農薬一覧表(2022年8月現在・失効した農薬も記載)

パストリア水和剤については実際に使用した事があり、過去に育たなかった野菜が収穫できるようになりました。以下の記事で、センチュウ発生から克服までの流れを詳しく紹介していますので、もしよろしければご覧ください。

センチュウ対策のまとめ

ここまでセンチュウの対策について解説しました。最後に要点を整理します。

  • センチュウは土を経由して畑に入り込む厄介な害虫。
  • 予防には道具や長靴を洗う、連作を避ける事が有効。
  • 多犯性のセンチュウの場合、雑草や草花、樹木にも寄生し増殖する。
  • 種類ごとに寄生できない植物「対抗植物」が異なる。
  • 有効な薬剤は燻蒸剤、非燻蒸剤、生物農薬がある。

ここまで読んでいただきありがとうございました。わずかでもセンチュウ対策のお役に立てたなら幸いです。

参考文献

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